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●とりっくおあとりーとぉ~



「【やぁ、皆のお姉さん・・・千怜さんだよぅ】とか言って格好よく出て行く予定だったんだ」

なんたる恥辱!と顔を赤く染めながら八つ当たりのように憤慨して千怜は戻ってきた。

「まあまあ・・・ところで、そろそろ始めませんか?皆貴方を待ってたんですから」

なだめながら進行を進めようとしているのはライトだ。

やはり年長者、頼りになるお兄さんだ。

「むっ、そうだな。では・・・」

そう呟いて千怜は勾燐の元へ行った。



「やあ勾燐、Trick  or  treat!」

「お、俺か!?」

あたふたと慌てている勾燐は、猫耳&尻尾のせいか、可愛く見えたのであった。

「ほらほらどうした~?早くくれないと悪戯するぞ~?」

ジリジリと迫ってくる千怜はとても楽しそうだ。

危険を感じた勾燐は、急いで持ってきていた包みを押し付けるように渡した。

「ほほぅ。中身は何だ?」

ガサゴソと包みを開けると、カボチャのマフィンが現れた。

「ふむ。中々美味しそうじゃないか」

爽やかな笑顔でそう言った千怜に、勾燐は付け加えるように言った。

「頑張って作ったんだぜ?味わえよ」

「・・・・・・は?」

聞き捨てなら無い勾燐の言葉に、千怜だけではなく他の皆もいぶかしげな目で勾燐を見た。

「勾燐が・・・作った?」

千怜の質問に、勾燐はあっさりと答えた。

「だからそう言ってるじゃねぇか。何だよ、俺が作ったらおかしいのか?」

おかしい?いや、おかしくは無いのだ。ないのだが・・・。

「勾燐がお菓子作り・・・エプロンつけて?お菓子作り・・・っく」

「な、何だよ?」

「くはははははは!!」

エプロン姿で楽しくお菓子作りをしている勾燐でも想像したのであろうか、千怜は突然笑い出した。

「ひいぃぃ!?」

目の前で突然大笑いされて、勾燐はたじろぎ後ずさった。

千怜の笑いが収まる頃には、勾燐は部屋の隅でいじけていた。

そんな勾燐をほうって、皆はお菓子強奪戦を繰り広げるのであった。



笑い終わった千怜の元に、密とライトがすかさず向かった。

『とりっくおあとりーと~!』

二人の声がハモる。

「むっ、私の元には二人来たか。だが争う必要はないぞ?渡す相手は私が決める!」

そう言っておもむろに密に包みを渡す。中身は秘蔵の芋羊羹だ。

「わ~千怜先輩ありがとう!」

喜ぶ密。

「ちょっ!?それはなんだかずるい・・・」

不満をこぼすライトには、仕方ないので他のものをやった。

「後で皆と食べようと思っていたパンプキンタルトだ」

「いやはや・・・お菓子もらえて嬉しいですよ」

ライトはそう言ったが、複雑な心境だった。

(くれないならくれないでいたずらしたかったな・・・)



そして次に、ライトの元へ小羽がトコトコと近づいた。

「えっと、とりっくおあとりーと、です」

「ん?宮崎さんですか。・・・あげなかったらどんな悪戯をしてくれるんですか?」

「え?えーと・・・」

思わぬライトの反撃に小羽は言葉に詰まった。

「ははは、すみません冗談です。さ、どうぞ?」

小羽は差し出された包みを受け取り、中身を見る。

「わ、クッキーですね。おいしそう」

「手作りなんですよ?」

ライトが付け加える。

勾燐に続きライトまでも!?

ライトの言葉を聞いていた皆に、沈黙が落ちる。

だが、それだけだった。

勾燐のときのように笑いがこだまするわけでもない。

『ライトがお菓子作り』という事実には、皆何故か納得がいったようだ。

「そうなんですか!?お上手なんですね」

小羽の笑顔のセリフで、場の空気が元に戻る。

「そうそう、私は皆さんに持ってきたんです」

そう言って置いてあった荷物の中の一つを持ってきた小羽は、一つ一つカラフルにラッピングされた包みを皆に渡した。

中身は可愛らしいプチカステラだ。

「紅茶ももってきたんですよ?」

と、小羽はカップに紅茶を注いでいく。

それに続き、密も個別包装して持ってきたお菓子を皆に渡した。

こちらは小さめのパンプキンタルト。



そしてそれまで黙っていた沙智が、テーブルの空いているところに何故か縦方向に巨大なパンプキンパイを置いた。

「頑張って作ったけど・・・ちょっと味が変かも・・・ごめんね?」

心配そうに微笑む沙智。一体こんな巨大なものを今まで何処に隠し持っていたのだろうか。

「では皿に取り分けよう!」

千怜が仕切って、そのままパーティが始まった。

「あ!それ美味しそう・・・頂戴?」

「・・・いやだ」

沙智のおねだりを無下に断る陽人。

「う~。・・・あれ?そういえば陽人はお菓子持ってきてたっけ?」

「どうだろうな・・・」

適当にはぐらかし、陽人は沙智から離れていった。

こうして、陽人が何も持ってきていないことは、そのまま知られることなくうやむやとなったのであった。



「そうだ!私からも皆にあげる菓子を作っていたんだった!」

少しして、突然千怜が思い出したようにそう言い、冷蔵庫からパンプキンプリンを持ってきた。

それををみんなの前に置く。

「私から皆への贈り物だ。プリンにタルト。不味くはないと思う」

千怜が一人づつ渡し、それを嬉々として受け取るもの。恐る恐る取るもの。

陽人だけは前回が前回なため、取るときに千怜に『変なもの入ってたら承知しないぞ』と目で訴えていた。

皆に行きわたると、同時に口にした。

「おいし~」

「なかなかの味ですね」

「・・・・・・今回は変なものは入ってないようだな」

さまざまな感想が入り乱れる中、勾燐が奇妙な顔をした。

「・・・・・・味しないぜ?・・・っていうか何?これ豆腐?」

「おお、勾燐に当たったか!どうだ?結構力作なんだが?」

ふっふっふっと含み笑いをしながら千怜が言う。

「そうだな、本当に見た目に騙された!畜生。ってかお前がただで終わるわけがないよなぁ・・・」

力なくうなだれた勾燐の肩に手を置き、千怜はもう一つプリンを差し出した。

「くく、冗談だ。千怜さんのお茶目という奴だ。ちゃんとしたのも用意してある」

千怜も、前回のことで多少懲りたのか、ちゃんとフォローとなるものを用意していたようだ。

「・・・ん、こっちは上手いな」

パクリと新しいプリンを口にして、勾燐は素直な感想を述べた。



●鍋奉行の敵は鍋奉行!?



お菓子も食べつくした頃、千怜が土鍋を持ってきて言った。

「もう夕食時だろう?事前に鍋を作っておいたんだ。さぁ、皆の者存分に食すがいい!」

千怜の掛け声のあと、勾燐の方からシュ~という音が聞こえた。

「あ!忘れてた。連れて来てたんだったな、出て来いよ女郎花」

勾燐の言葉に従うように、勾燐の服の中から白蛇がウニョウニョと出てきた。

「シュ~」

「なんだ来ていたのか、良かった。女郎花のために用意しておいたつみれが無駄になるところだった」

千怜はそう言って、女郎花に生のつみれを差し出す。

「シュシュー♪」

言っていることは分からないが、動きでどれだけ喜んでいるのかはよく分かった。

そして女郎花も混ざり、皆で鍋を囲んだ。



「ああ、そこ肉ばかり食うな。野菜を食え、野菜を!」

鍋奉行・千怜。鍋の前を陣取ってちゃきちゃきと指示を下す。

「まだ、手を出すな…よし、今だ熱い内に食え。旨味が逃げる前に!」

「ちょっとまてぇい!」

静止の叫びは、千怜の真向かいにいた勾燐だ。

「旨みはある程度冷めてからのほうが出てくるのもあるんだ。なんでもかんでも熱いうちに食わすな!」

身を乗り出して千怜を睨む。

「っふ、キサマも鍋奉行か・・・?面白い」

不適に笑い、千怜がいきり立った。

「勝負だ!」

「望むところだ!!」

鍋奉行でどう勝負するのだろうか。

とにかく、二人の世界に入ってしまったやつらはほっといて、他の皆は思い思いに鍋を突付いていた。

沙智と小羽はしばらくの間険悪な二人をあたふたと見守っていたが、結局は食欲に勝てずに鍋の元へ戻った。



鍋も終わり、沙智が今日を振り返って呟いた。

「ハロウィンって良いよね・・・みんな集まれて・・・楽しめるし、お菓子もいっぱい・・・この結社で良かったな、って・・・思える・・・」

その言葉が締めくくりとなって、ハロウィンの夜は終わりを告げたのだった。





END

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●プロローグ



それはある日の事。

いつものように皆で和室でくつろいでいたとき、団長・桐嶋千怜(高校生霊媒士・b01805)がぽつりともらした。

「そろそろ何かやりたくない?」

その問いは誰に向けられたものなのか、答えはその次の言葉で明らかになった。

「ねえ、勾燐?」

「俺かよ!?」

即座の突っ込み。

朱月勾燐(高校生ゾンビハンター・b02638)は諦めたようにため息をつき答えた。

「はー・・・何かなー。時期的にハロウィンでもするか?」

「おお!いいじゃないかハロウィン!」

千怜の嬉々とした叫びに続き、他からも喜びの声が聞こえてくる。

「じゃあお菓子とか持ち寄って!」

「うん!衣装とかもほしいよねー」

なんだかどんどん話が決まっていく。

「じゃ、じゃあハロウィンで決定ってことで・・・」

早くも疲れが見え始めている勾燐の声に、一同はおー!声をそろえた。





●千怜を探せ!



10月31日、結社『泡沫』の一室。

いつもはあまり使われていない洋室には、事前に皆で用意したハロウィンの飾りが隙間なく埋め尽くしている。

そんな部屋で皆を待ちながら、桐嶋・千怜(高校生霊媒士・b01805)は最後の飾りであるカボチャランタンをテーブルの中央に置いていた。

「さてと、あとは・・・」

呟き、千怜はその場から姿を消した。



「この学園で初めて出来た先輩たちとハロウィンパーティーをするなんてとても楽しみです」

結社に着く前に皆で合流した後、狼女の扮装の宮崎・小羽(中学生符術士・b07485)はそう切り出した。

「そうだね、皆で楽しめるといいよね」

小羽に相槌を打つのは鷹岡・沙智(中学生ファイアフォックス・b06419)。こちらは狼男だ。

「うんうん!楽しそうだもんね。・・・ところで、確かハロウィンてお菓子が沢山貰える日、なんだよね・・・?」

二人に同意して、不安げにハロウィンのことを確かめてくる木立・密(中学生ゾンビハンター・b07585)。

密は黒マントにプラスチック製のジャック・オー・ランタンを被っているため顔は見えない。



「うーんとだな。ハロウィンは、キリスト教の全ての聖人の日(11月1日)の前日の晩に行われる伝統行事で、ケルト人の収穫感謝祭がキリスト教に取り入れられたものとされているらしい。ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていて、これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いていた。これに因み、31日の夜、カボチャをくりぬいた中に蝋燭を立てて「ジャック・オー・ランタン」を作り、魔女やお化けに仮装した子供達が「トリック・オア・トリート(お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)」と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねる。家庭では、カボチャの菓子を作り、子供達は貰ったお菓子を持ち寄り、ハロウィン・パーティーを開いたりする。・・・と」



聞いていない専門的なことまでも話し出したのは朱月・勾燐(高校生ゾンビハンター・b02638)である。クロネコをイメージしたのか、付け耳と付け尻尾をしている。

「よく知ってるな?」

さして興味もなさそうに聞いてくるのは片倉・陽人(高校生霊媒士・b03249)。黒マントだけの格好は、ドラキュラに見えないことも無い。

「ウィキペディアフリー百科事典参照!」

陽人の質問に、はっきりと答えた勾燐。

「って、見ながら話してたんですか?どれどれ?」

勾燐の持っていたメモを奪い取り物色する孤月・ライト(高校生ファイアフォックス・b07604)。彼の装いは・・・なんと言うか、まさに魔王だ。ちゃんと角もつけている。

「ハロウィンのテーマは不気味なものや怖ろしいもので、特に、死、アンデッド、黒魔術や神話の怪物などが含まれる。幽霊、魔女、コウモリ、黒猫、ゴブリン、バンシー、ゾンビ、魔神、ドラキュラ、フランケンシュタインなどが一般的に含まれる・・・」

ライトは続きを読み返す。



「えっと・・・つまり・・・。・・・・・・どういうこと?」

密が改めて聞いてくる。ますます意味が分からなくなったようだ。

「う~ん。とにかく、仮装してお菓子食べて楽しもうってことだよ」

自分の解釈で答える沙智。

他に誰も突っ込まないので、密もそれで納得したようだ。

そんなやり取りをしている間に結社についた。

「やはり挨拶はアレですよね?」

愛らしい笑顔でそう言った小羽に、皆は当然と言うように頷いた。

「では・・・」

ガチャ



『Trick  or  treat!』

「きゅ~?」

『は?』

沈黙が流れた。

扉を開け、千怜が出迎えてくれると思っていた一同は、思わぬ存在に呆気にとられた。

シャーマンズゴースト。

皆は思った。

(誰の!?)

少なくとも今ここにいるやつのでは無いだろう。最初からココにいたのだから。

では千怜?いや、彼女はシャーマンゴーストを所持してはいなかった。

考え込み動けずにいる一同。その中で沙智がソレに気付いた。

「あ!?お腹の辺りに何か紙が貼ってあるよ!?」

沙智の言葉でやっと気付く。でかでかと貼られたソレに、何故気がつけなかったのか・・・。

その紙には【材料が切れた買い出しに行ってくる。】と書かれていた。

明らかに千怜の字である。というか、他にいるわけが無い。

「きゅ~?」

立ちっぱなしで動こうとしない一同を不審に思ったのか、シャーマンゴーストが首を傾げた。

無垢な瞳が何とも愛らしい。

「この子可愛いです・・・」

小羽が思わずポツリとこぼす。

他の皆も同じ思いなのは表情を見ても明らかだ。いや、陽人だけは無表情で何を考えているのかよく分からない。



「きゅ、きゅ~」

シャーマンゴーストが微妙に手招きをしながら何処かへ誘導しようとしていた。

案内役ということだろうか。洋間へ行こうとしているようなのだが・・・。

くるりと反転したシャーマンゴーストは、何だか引っ掛かったようで、動けなくなっていた。

「きゅ、きゅ?」

慌てた声も愛らしい・・・。

そのまま前に進むことは諦めたのか、ゆっくりと入り口の方を向いて後退しだした。

・・・・・・後退なら出来るようだ・・・。

「きゅ~」



何とか洋室につき、皆隅っこの方に荷物を置いた。

千怜が戻ってくるまで部屋の飾りを見て回るなどして時間を潰していたが、とうとう陽人が痺れを切らした。

「・・・千怜はまだか?」

ため息交じりの声の直後、何処からかドラムロールが聞こえ、スポットライトがシャーマンゴーストを照らした。

「何だ!?」

「どうしたの!?」

驚きの声の中、シャーマンゴーストは小刻みに震えながら怪しげな動きと共に背中にある何かを掴もうとしていた。

だが・・・。

「っうきゅ!?・・・くそっ」

届かないのか目的の物が掴めない。

ぴょんぴょんと跳ねているがそれも無駄らしい。

ここまでくると、このシャーマンゴーストの正体が誰なのか、皆分かっていた。

頑張れ~と応援する者。

空笑いをする者。

突っ込む気すら失せ、白い目で見つめる者。

それらに耐えられなくなり、シャーマンゴースト――千怜は逃げ去ったのだった。



●開始!花火大会(?)



「よ~し、皆いるな?火の扱いには気をつけて存分に楽しもう」

千怜の言葉で花火大会が始まった。

「よし!じゃあまずは打ち上げだ!どんどんつけるぞ!」

勾燐が嬉々として叫び、次々と打ち上げ花火に火をつけていく。



ドーン

パーン



大きな音を立てて夜空に散る火花を見る皆。

その楽しみ方は様々だ。

「本当に、綺麗ね・・・・・・」

瑠美奈は自前の団扇を揺らしながら、優雅に見上げている。

千怜と珠姫はそのとなりで「おおー」とか「・・・っ!」と感嘆の声を上げている。

「あんまり大きいのは・・・・・・ちょっと怖い、から・・・」

と言って、はるか後方に陣取っているのは沙智。

そして陽人は未だに椅子に座り、茶と煎餅をほおばりながら見上げている。

陽人が一番くつろいでいる・・・。

火をつけている勾燐は、火をつけること自体を楽しんでいるようだった。



一通り打ち上げが終わると、鼠花火、蜻蛉花火、ロケット花火などを皆で始めた。

沙智は周りの様子を見て合わせようと思うが、火花が怖いようで「熱そう・・・・・・」と言ってみんなから少し離れていた。

「みんなに火花が飛ぶと・・・アブナイ・・・・・・でも、小さいのなら・・・出来る・・・かな・・・・・・?」

呟き、小さいものをやってみる。

やっているうちに段々と火花に慣れてきて、少しずつ他の者の傍でやるようになった。

段々と楽しくなってきたのか、花火を探って、ロケット花火を取り出し着火。発射する。

「すごい・・・・・・飛んだ・・・・・・」

すごい勢いで飛んでいく花火に驚く沙智。

「こんなに突然飛ぶんだ・・・・・・ちょっと、びっくりした・・・・・・」

「そうだろう?だがな、こうやってやるともっと凄いんだ」



いつの間にか沙智の近くに来ていた千怜は、右手にライター。左手には指の間にロケット花火をさしてそう言い、おもむろに火を点け始めた。

「おいおい、ロケット花火はそう持ったらだめだろ?ってか説明読んだか?」

ロケット花火は手に持ってはいけない。常識のことだ。だがそれを簡単に無視する千怜に、勾燐が近づいてたしなめた。

「ぬ、ぬ…?」

なかなか火がつかないライターに、イライラしていた千怜には勾燐の言葉が聞こえなかったようだった。

「く、不良品か。くそっ!」

女子あるまじき言動を発し、千怜はキれた。

「ええぃ、まどろっこしい!!こいつでどうだ?起動!…フレイムキャノン!!」

点火。舞い飛ぶ花火。

「ぉー、やっぱりこうじゃないと」

豪快に笑う千怜。何やら味を占めたらしい。

またしても指の間にロケット花火をさし、今度はくつろいでいる陽人に向けて火を点けようとしていた。

「わあぁぁぁ!!!それだけはやめろぉ!」

キれた千怜を呆然と見ていた勾燐が、慌てて止める。

「わ・・・姉様!?」

沙智も、それだけは阻止しなければならないことを察し、千怜を止める。

二人のおかげで何とかそれだけは阻止出来た。

餌食になりかけた当の陽人は、のんきに茶をすすっていた。

(っち・・・面白そうだと思ったのに。まあいい、それなら・・・)

今度は何を思ったのか、千怜は残りのロケット花火の山に、火を投げ入れた。

「・・・・・・っ・・・わ・・・・・・」

あまりのことに沙智は反応できず事の成り行きを見守り、勾燐は・・・。

「わーーーーーーーー!!!何してんだちーさーとぉーーー!」

頭を抱えて混乱という道を延々と走り回っていた。哀れ・・・。

壊れてるかのごとく豪快に笑う千怜は、もう責任やら団長とかなにもかも忘れて楽しんでる。

そんな危険地帯から離れ、瑠美奈と珠姫は共に小さな花火を楽しんでいた。

本来ならばこちらの風景が正しい花火大会なのだが、それを千怜に正せる者も、突っ込むことを出来る者もいるわけが無かった。



「花火って・・・どういう仕組みになってるの、かな・・・・・・」

千怜から離れ、花火の仕組みに興味が沸いた沙智は、みんながやっている傍でやり終えた花火を解剖し始めた。

「・・・うわぁ・・・すごい・・・・・・職人技・・・っ!」

思わず職人の素晴らしさを感じて感嘆。

それが危険なことだと唯一突っ込んでくれる勾燐は、暴君と成り果てた千怜を止めるのが精一杯だった。

いや、完全に止めることはできていないが・・・・・・。

故に、危険な花火解剖はもうしばらく続いたのであった。



●風流花火『線香』



「さ・・・後は閉めの線香花火だけだな・・・・・・」

勾燐が疲れた声で言う。

「・・・やっぱり・・・みんなといると・・・楽しい、な・・・・・・でも、もう無くなっちゃうんだ・・・・・・なんか、すごく時間が・・・早いような・・・」

線香花火を掴みながら、淋しそうに呟く沙智。

「淋しがることは無い。これからこのメンバーで色んな楽しさを味わっていくんだから」

正気に戻った千怜が、沙智の頭を撫でる。

沙智は猫のように、嬉しそうに目を細めた。

「こういう風に皆で遊ぶのも、なかなか良いわね・・・・・・」

線香花火に火を点け、瑠美奈はしんみりと言葉を紡ぐ。

隣では珠姫がこくりと頷いた。

「陽人、最後くらいやったらどうだ?」

勾燐が誘うと、陽人は「面倒くさい」と即答した。

恨みがましく勾燐が睨むと、ため息をつく。

「最後の一本だけなら・・・」



そして、残り六本。

一人一本ずつ持ち、一斉に火を点ける。

「落ちないで消えたら・・・・・・ネガイゴトが叶う・・・・・・」

どこかで仕入れた知識・・・いや、それはジンクスといったほうが近いだろうか。

呟いた沙智にならって、それぞれ願いは違うけれども、皆心の中で願った。

線香花火の、火種が落ちるまでのほんの数秒間。

静かで優しい時が流れた。



●終盤の罠



「さて、遊んだらお腹が空いただろう?おにぎりとお茶を作ってきたから、皆で食べよう」

ある程度の片付けも終わり、千怜がそう言いだした。

先ほどの線香花火で、しんみりとした気分になって別れがたくなっていた一同は(陽人を除く)、二つ返事でそれを承諾した。



「さぁ、光栄に思え。おにぎりだ。かつお、うめ、こんぶ、などなど」

そう言って一つずつ手渡しする。

無言で受け取った陽人に、勾燐は眉を顰めた。

「お前ずっと煎餅食ってたじゃねーか。それ食えるのか?」

「まあ、一つくらいなら」

呆れてものが言えない勾燐を放って、陽人はおにぎりを口にする。

「・・・あ、ボク鮭だ・・・」

沙智。

「私はかつおね」

瑠美奈。

「・・・・・・っ!」

これは珠姫。言葉になっていなくても表情で分かる。梅だ。

勾燐も大口で食べ、中身を見る。

こんぶだ。口の中にまだ残っているので声には出さない。

(まあ変な具とか、塩と砂糖間違えたなんてオチじゃなくて良かったぜ)

そう思った途端、勾燐の隣からぶほっという音が聞こえた。

「!?」

驚き皆がそちらを見る。そう、つまり陽人をだ。

「なっどうしたんだ!?」

聞いてもむせているばかり。しばらくまともに話せそうにない。

「・・・・・・くくく、あっはははは、引っ掛かっ・・・・・・ぐふっ、気管に米がっ・・・」

高らかに笑い、そして自業自得な目にあったのは千怜である。

陽人と千怜がむせている中、他のメンバーは悟った。

千怜が陽人のおにぎりに何か変なものを入れたのだと。

瑠美奈が二人にお茶を差し出し、二人は落ち着いた。

「千怜・・・・・・」

「っくくく・・・一つだけ豆板醤入れてたのよね。陽人か勾燐に行くようにしてたのよ。・・・っく、あっはははは!」

地の底を這うような陽人の呼びかけに、千怜はまた笑い出した。

陽人の雰囲気が、いつもより何億倍も怖いことに千怜だけが気付かない。

ほかのメンバーは、少しずつ距離をとり、逃げ出した。

そのあと、二人に何が起こったのかは、本人達にしか分からないのであった・・・・・・・・・・・・。



●オープニング



「よしゃ!皆!花火大会するぜ!」

結社『泡沫』にも少しづつ仲間が増えてきたある日の朝、朱月・勾燐(高校生ゾンビハンター・b02638)が唐突に言い出した。

突然のことで、一同沈黙に落ちる。



「服装自由で、花火持込自由な。どうせなら浴衣着て打ち上げとかやりたいが無理強いはよくねぇからな」

一同の返事も聞かず、どんどん決めていく朱月。

「・・・おい」

「ああ!そうそう、場所は校庭の一画借りれるように許可とっとくからよ!」

誰かが口を挟もうとしたのだが、朱月には聞こえていない。

「期日は9/3!皆それまで色々準備しとけよ!じゃあ俺、早速場所の許可取りに行ってくるぜ!」

言うが早いか、朱月はさっさと結社の外へ出て行ってしまった。

残されたのは、未だ呆然と事態を把握出来ていない者と、去り行く朱月を止めようと立ち上がったはいいが間に合わなくてそのまま固まってしまった者達であった。

「・・・・・・どうする?」

「やるしか・・・ないのでは?」

ぽつりと会話が成され、またしても沈黙が下りた。



●そして当日18:15~男性陣~



9月3日夕刻。

結社『泡沫』の扉の前では、三人の男子生徒がたむろっていた。

「花火・・・・・・買ってきた。みんなが楽しめそうなちょっと派手なやつと・・・飛ぶの・・・・・・あと定番だって聞いた・・・線香花火」

持っていたビニール袋を他の二人に見せるように軽く持ち上げたのは、鷹岡・沙智(中学生ファイアフォックス・b06419)であった。

走って来たのか、息が切れ切れだ。

浴衣を持っていないからと、彼は私服のゆったりとした服を着ていて、男ながら可愛かった。

今ここに団長がいたら、頭を撫でて可愛がっていたであろう。



「俺が持ってきたのは鼠花火とか蜻蛉花火、あとはロケット花火か・・・まあそんなところだ」

沙智に続き、自らの持ってきた花火の詳細を語る片倉・陽人(高校生霊媒士・b03249)。

少し面倒臭そうな彼は、浴衣を着るのも面倒だと言って沙智同様私服で来ていた。

ただ、こちらはいつもこんな感じなのだろうと納得させられるような、しっくりするラフな格好だ。



「おれは打ち上げ中心だな!」

そして最後、無駄に元気なのはこの話を提案し、ほぼ無理やり進めていった朱月・勾燐(高校生ゾンビハンター・b02638)だ。

三人の中で、唯一浴衣を着ている人物でもあった。

「ところで、先に行って準備とかしなくてもいいのか?」

現在は浴衣に着替えている女性陣を待っているところだった。

女性の浴衣は複雑で、当然ながら時間がかかった。

そう言った陽人は、その時間をただ待っているだけというのはもったいないと良いたいのだろう。

だが・・・。

「んーでもな、ちゃんと待ってろって言われたからなー」

女性に対して押しが弱い勾燐は(誰にでも弱いが)、言いつけを守るほうを選んだようだった。

陽人は小さくため息をつき、女性陣が中にいる結社『泡沫』の扉を見つめた。



●そして当日18:15~女性陣~



同刻、結社『泡沫』の部屋の中。

そこでは三人の女生徒が、楽しそうに浴衣に着替えていた。



「私は去年、受験勉強で忙しくて花火で遊べ無かったから・・・今年は良い思い出として残る様な花火大会にしたいわね」

帯結びに奮闘しながら呟いた雪山・瑠美奈(高校生魔弾術士・b06640)。

「そうだな・・・だが、何か不始末があったら団長の責任。ふっ、私が皆を纏め上げねばな」

苦戦しながらもすでに着替え終えていた団長・桐嶋・千怜(高校生霊媒士・b01805)は、瑠美奈に同意し、最後の方は自嘲気味に呟きながら、瑠美奈の帯結びの手伝いをしていた。

「よし、瑠美奈はこんなところだろう。あとは簪挿して終わりだ」

そう言って、もう一人の女子生徒・日月・珠姫(小学生符術士・b07706)の方へ振り向く。

「珠姫、そっちは・・・・・・準備万端のようだな」

水色に金魚柄の夏らしい浴衣を兵児帯で金魚形にしっかりと結っていた珠姫を見て、嘆息を漏らしながら千怜は呟いた。



「それにしても、まだ小学生なのにちゃんと着れて・・・すごいわね」

簪を挿し、持ってきていた団扇を持って近づいてくる瑠美奈。

「そうだな、帯もきちんと結わえれて。珠姫はすごいな」

悪意など何処にも無い素直な笑顔の千怜。

先輩二人に笑顔で褒められて、珠姫は頬を軽く朱に染め、少し俯いた。

どうやら照れているらしい。

その可愛らしい仕草に、先輩二人は胸がきゅうん・・・となったのを感じた。



●最終準備!



着替えが終わり、部屋から出てきた女性陣と合流した。

「・・・わ、みんな綺麗・・・・・・」

女三人の浴衣姿に思わずそう呟いたのは沙智だった。

それを皮切りに、浴衣談義が始まった。

「女ってよくこんな帯の結び方できるよなー」

などと感心する勾燐に、陽人が冷たくつっこんだ。

「こんな所で話をしてていいのか?花火、やるんだろう?」

至極最もな言い分に、勾燐だけでなく皆が黙り、さっさと場所を移すことにした。



借りていた校庭の一角に移動した一行は、とりあえず花火を出し合った。

鼠花火や蜻蛉花火、打ち上げにロケット花火といった派手目のもの。

後は定番の線香花火だ。

ロケット花火は千怜が大量に持ってきたため、沙智と陽人が持ってきた分も合わせると結構な数になった。

そして線香花火も、定番だからと何人も持ってきていた。

「こんだけありゃあかなり楽しめるだろ」

満足げにそれらを見下ろす勾燐。



「・・・・・・っ!」

バシャーーーン!!

突然、少し離れた所から液体が派手にぶち撒かれた音がして、一同そちらを振り向いた。

そこには、いつの間にそんなことになったのか、珠姫が地面に転がっていた。

すぐ側には大きな水溜りとバケツ。何があったのか容易に想像が付く。

千怜と瑠美奈がすぐさま側により、助け起こす。

特に怪我はなかったが、花火の安全のための定番であるバケツに水をちゃんと入れてこられなかったのが悲しかったのか、落ち込んでいた。

「落ち込まないで、もう一度、今度は一緒に汲んできましょう?花火は沢山あるから一つじゃ足りないし」

慰める瑠美奈の言葉に頷き、今度は千怜も混ぜて女子三人でバケツに水を汲みに行った。



「・・・・・・蝋燭、せっかく持ってきたから・・・・・・」

と、沙智が蝋燭を5本並べて立てた。

「“まっち”って・・・どうやって擦ったら上手くつくのかな・・・・・・?」

悪戦苦闘している沙智に、勾燐が助力を申し出たが、沙智は自力でやってみるとそれを断った。

ちなみに陽人は、我関せずとでもいうように、何処からか持ってきた椅子に座り、さらに何処からか出してきた茶と煎餅をほおばっていた。

「・・・あ、ついた・・・・・・」

何度もマッチを擦って、やっと火がつく。

「ろうを最初に溶かしてその上に・・・立てると・・・・・・あ・・・立った・・・・・・」

などと生活の知恵を発揮しながら、蝋燭に火をつけていく。

「・・・・・・誰か呪ってるみたい、だけど・・・・・・いっか・・・」

なんだか物騒なことを言っていたが、近くにいた勾燐は聞かなかったことにした。

丁度その後に水汲み組が戻ってきて準備が完了した。





後編へ続く

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プロフィール
HN:
桐嶋千怜
性別:
女性
職業:
霊媒士
趣味:
惰眠
自己紹介:
私はわがままですよ?
そしてさぼてんラブです。

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 この作品は、株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のイラストとして、桐嶋千怜が作成を依頼したものです。
 イラストの使用権は桐嶋千怜に、著作権は東原史真に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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