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「あ"っっううぅ」
それは夏の出来事。
それは心の底から思う私の気持ち。
初の結社員、朱月勾燐を迎えて半日。
私は居室のテーブルに突っ伏し夏の暑さに伸びていた。
まだ午前中だというのにこの太陽の照りつき、容赦なく気温は上がり暑さに弱い私にとって現状はもう最悪。
少しでも暑さを凌ぐ為、窓を開け放ち扇風機を置いているが効果は見受けれない。
冷房?そんなものは電気代が勿体無いから使わない。
ほらアレだ。心頭滅却すれば何とやら…って言うだろう?
そして私のおなかも限界。昨夜御飯を食べずに寝たのがまずかったのか、
さっきからおなかが鳴りっぱなし。
「勾燐~、お昼御飯まだぁ~」
「それ、さっきも聞いただろ。一分もしない内に聞かないでくれよ…」
そうだっけ?きっと暑さで物忘れが酷くなっているんだな。
まぁ、それはそれ。
「そんなことは知らん。私を飢え死にさせる気か~~~」
テーブルでジタバタ…気分は駄々っ子。
「ったく、これでも食べて大人しくしてろ。」
いつの間にか傍に来ていた勾燐が何かを置いていく。
「ん~?おお、アイスだぁ。」
中々に気の利く奴だ。うむ、やはり暑い日はアイスに限る。
スプーンを受け取りさっそく一口。
…美味。この火照った身体を内から覚ましてくれる上に、濃厚な抹茶味に滑らかな舌触り。
ぬぅ、市販のアイスも結構侮れんな…
「それと仮にも女の子なんだから、暑いからって下着姿で居るのはどうかと思うぞ?」
「ん~、大丈夫。勾燐のこと男と見なしてないから。」
「…襲うぞ」
「死にたいのか?」
レッグホルスターから銃をゆっくりと抜き出し勾燐の眉間に向ける。
「ごめんなさい。生意気なこと言いました、反省してます。」
「よろしい。では食事の支度に戻れ。」
勾燐は御飯を作り、私はアイスを堪能する。これが今の力関係そのものだ。
ピーンポーーーン
「お、誰か来たみたいだな。」
「いい、私が出る。」
玄関に向かおうとする勾燐を制止し、玄関の覗き穴から様子を伺う。
男が無表情で立っている。しかしそれ以前に際立つのが、
黒い。怪しさ爆発だ…うん、捨て置こう。こういうのは関わりあいを持ったらダメだと思うんだよね。さて、アイスアイス。
「誰だったんだ?」
「ん?黒かったよ。」
「はっ?」
「黒くて怪しい奴がいた。それだけだよ。」
うん。嘘は言ってない。
ピンポーンピーーンポーーー
「いいのか?」
「いいんじゃない?きっと宗教か何かだ、気にすることはないさ。」
ピンポンピンピピンポーンーーー
鳴り止まないベル音。どうやら会えるまで帰る気はないらしい。
「チッ、しつこい。勾燐対応を―――」
「はいよ。」
勾燐が玄関に向かい対応をしている間に私はアイスを食べる。
しかし早く帰れば良いのに…いつまで経っても御飯が食べれないじゃないか。
まったく昼飯時に訪問するなんて非常識極まりない奴だな。
そんなことを思っていると玄関先から勾燐の声が聞こえてくる。
「千怜、お前に用があるだとよ。同じ学園の奴だったぜ。」
「ん、そうか…わかった。中に通してくれ。私は着替えてくる。」
さすがの私も下着姿を知り合い以外に見られるのは恥ずかしいからな。
自室に戻り適当に服を着、人前用の笑顔を作る…平たく言えば猫被りだな。
「お待たせ致しました。」
う~ん。やはり黒い。こんなにも暑いというのに何故こうも黒の長袖で平然としていられるのだろうか・・・
しかも態度がふてぶてしい。お茶の御代わりまで要求してるよ、この男は。
「で、私に用があるとお聞きしましたが?」
椅子に座り男と向き合う。で、勾燐は執事のように私たちにお茶を入れる。
うむうむ。立場というものを弁えているな。
「入団希望だ。これが書類…問題はないな?じゃ厄介になる。」
男はさも面倒だと言わんばかりに話しを打ち切る。
私は入団書を受け取り、ざっと目を通す。
片倉陽人、男、15歳…学年は一縷樹キャンパス1-8。ふむ、同学年か…
「貴方の入団を許可する前に幾つか質問がありますが…よろしいですか?」
黒い男、陽人の目を見据え静かに言葉を紡ぐ。…なんか私凄く管理者っぽくないか?や、実際そうなんだけどね。
「ああ。」
「なぜ、数在る結社の中でここを選ばれたのですか?」
「まず名称、次いて謳い文句の『なにかがある』に惹かれた。」
そういえば結社要項に何か適当なことを書いて提出していたが、まさかそれで来るとは―――
「まだ当面の活動予定はないです。ここに居ても何かを得ることは難しいかもしれませんよ。」
「あまりにアレだったら出て行くさ。ま、なんにせよ、あんたの事や、結社員の事は何も知らないんだ。しばらく籍を置いてから決めようと思っている。」
現状ではこの男が何を考えているかは判らないが、勾燐一人だけというのも味気無い。
「…いいでしょう。入団を許可しよう。よろしく陽人。」
契約は成立した…そういった意を示し陽人に向け手を差し伸べる。
「……なんか口調変わってないか?」
「気にするな。これが素だ。」
私の手をじっと見つめ、そして面倒臭そうに手を出してくる。
「騙された気分だ、よろしく団長。いや、同い年だから千怜か。」
「まぁ好きに呼べ。あまりそういった事に拘りは無いからな。」
二、三度手を振り、私は思っていたことを言い放つ。
「しかしキミは暑苦しいな。その格好どうにか出来ないのか?見ているこっちの気分が滅入る。」
「ふん、見た目で判断するとは…この服は見た目に反して通気性抜群、熱も篭らない一級品。そんじょそこらの安物と一緒にしないでもらおうか。」
「着心地など聞いていない。この暑さでその長袖を見ていると、私が不愉快になるから止めろと言っているんだ。」
「断る。」
ぬ、引かないな。しかしそう簡単に引く私でもない。
「ならばせめて袖を捲くれ。」
「それも断る。お前がどう思おうがそれを人に強制するな。」
「…実に残念だ。私とキミは相容れないようだな。―――お引取り願おうか。」
「ハッ、何が残念か。結社長様は随分と自分勝手なようで…いやいや困ったものだ。お前に言われなくても出て行くさ。あ~ぁ、時間無駄にした。」
入団を許可して十数秒、契約を破棄。いやはやまさかこういう結末になるとは…ギネス級だね。
だが人は我侭なもの。相容れぬ者を許容できるほど私は人間が出来ていない。
これは、アレだ。たぶん必然なんだと思う。
「って、おいおい。なに二人して揉めてるんだ?これでも食って落ち着け。」
険悪な空気を物ともせず、キッチンから姿を現した勾燐はテーブルに笊を置く。
「ご所望の素麺だ。陽人も遠慮なく食べていいからな。」
「待て勾燐。コレは客人でもなんでもない、ただの変人だ。そんな奴に食わせる飯なぞ無い。」
「ふん、そういうことだ。そう言って貰えるのは嬉しいが、これ以上コイツと居たらストレスが溜まる一方だ。悪いが帰らせてもらう。」
「まぁ、そう言うなって二人とも。一人より二人、二人より三人で飯食ったほうが美味いって。ほら座れ座れ。」
既に人数分の割箸とめんつゆを用意し食べる準備万全の勾燐。片や無理矢理座らされご飯を強要させられる陽人。
そして私としても色々と問題はあるが、ご飯時に騒ぎ立てるほど無作法なことはない。
「ッ~、まぁいい。食べ終えたらとっとと帰れよ。」
「言われずともそうする。」
「そう険悪になるなよ。全部俺が食っちまうぞ。」
そう言うや否やズズズッっとその大きく開いた口に素麺を流し込んでいく勾燐。
不思議なことに啜る音を聞けばこちらのお腹もご飯を寄こせとがなり立てる。
つまりは…私はいま空腹の限界が近いということだな。
「む、仕方ない一時休戦だ。」
適当な量をその箸に取り、つゆに漬け一気に啜る。豪快な音と共に胃に流れ込む素麺。
もっと寄こせと抗議を立てるお腹を満たす為、止まることを知らないかのよう箸は忙しなく動く。
「そうだな。じゃ、俺も頂くとするか。」
私と勾燐に倣うように陽人も素麺に箸を付け一時の食事が始まる。
結構な量がある素麺を黙々と啜る私を横目に、勾燐が陽人に向け口を開く。
「ウチの結社長はスゲーだろう?」
「あ~、うん。すごいと言うより我侭だよな。」
「あっはっはっは。俺も出会い頭に銃をぶっ放されたからな。ホラ、これ、その時の傷。」
私はというと言いたいことはあるが口に素麺が溜まっているからモノを言うことが出来ないでいたりする。
「そいつはスゲー。よく、こんな奴の下に居られるな。」
「あ、いや、俺も悪かったしな。」
「ふ~ん。何したんだ?」
「まぁそれは気に―――」
「部屋に勝手に入って待っていた。ついでに言えば私の湯呑みを舐め回していたがな。」
勾燐の言葉を遮り、私は昨日起きた事をありのまま話す。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・お前、それはダメだろう。」
後に残るのは微妙な沈黙と素麺を啜る音だけだった。
「勾燐、お茶。」
「あ、俺も。」
昼食を終え、私は食休めにお茶を頼む。
「あー、はいはい。ちょっと待ってろ。」
キッチンに引っ込み数秒後、人数分の湯呑みを載せたお盆を持ってくる。
「ほらよ。」
「うむ。」
湯呑みを受け取り一啜り。む、茶柱が立っている…良いことあるといいなぁ~
「へぇ、うまいな。」
「お、そう言って貰えると嬉しいね。」
陽人の賛辞に喜ぶ勾燐。
「そういや煎餅がある…食うか?」
私に向けてなのか、勾燐に向けてなのか、はたまた二人に対して言ったのか、そう切り出してくる陽人。
どちらに向けているにせよ、食後のデザートとして貰える物は貰うさね。
「む、頂こう。」
持ってきていた学生鞄を漁り、まだ封を切っていない煎餅の袋を取り出す陽人。
パンッと小気味よい音を立て、口を開けた袋を私達に向ける。
「ほい。」
「ありがと。」
「サンキュー」
ボリボリと煎餅を砕く音と、ズズズとお茶を啜る音。
険悪な空気など無かったかのように吹き飛ばし、穏やかでまったりとした時間が流れる。
「千怜。」
勾燐が私を呼び見つめる。その目が物語っているモノは言わずともがな。
「…好きにしろ。」
「だとよ。良かったな陽人。」
「は?なにがだ?」
「なにが…って、入団のことだよ。居付いてもいいだとさ。」
「…どういう心境の変化だ?」
「暑さと腹ペコと忙しさで苛立ってたんだよ。ホントはお前の服とかあまり気にしていないと思うぜ…たぶん。」
なにやら好き勝手言っているがもうこの際どうでもいいことだ。―――と、そういえば言い忘れたことがあるな。念のため釘を刺しておくか。
「ああ、それと私をどうにかしようなどと思わないことだ。もし邪な考えを抱くようなら…極刑に処す。」
陽人に指を向け架空の銃を撃つような仕草を取る。
「マジ気をつけたほうがいいぜ。ウチの団長…容赦無くぶっ放すからよ。」
横合いから陽人に忠告をする勾燐。自身の時を思い出したのかちょっと身震いをしている。
「はは、気をつけることにする。」
乾いた笑いと共に片倉陽人は結社泡沫に籍を置くことになったのである。
結社を立ち上げて数日。今日もまた書類の波に振り回される。
やらなければならないことは未だ終わりを見せない。
夜も更け、ようやく自宅兼結社であるマンションに辿り着く。
「今日もお疲れさん。」
自身に対し労いの言葉を漏らす。
うん。ちょっと空しいけど気にしないことにしよう。
居室を抜け自室である和室に足を向ける。だが…
ぬ、電気が点いている。消し忘れたか…疲れているのかなぁ。
そんなことを考えながら障子を開ける。そしてしばし膠着。
「よっ、邪魔しているぜ。俺はあかつ…」
瞬間膨れ上がる何か。太股に取付けてあるホルスターから素早く銃を抜き侵入者に対し撃鉄を起こす。
なぜ銃を携帯しているかだって?気にするな乙女の秘密というものだ。
「キサマ何者だ。どうやって此処に入った!?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!撃つな。はな…」
「死にたいようだな。」
低く一言。引き金に力が加わる。それを見るや侵入者は、
「わかった、答える!だから待て。いやマジで!!」
何かすごい涙目になっているが、それはそれ。
私は侵入者に冷やかな眼を向けながら次を促す。
「…あの、その、と、特技の家屋潜入で、です。」
ダンッ!
思わず引き金を引いてしまった。頬を掠めたみたいだな。傷が出来ている。
「な、ななな、しょ、正直に答えたじゃないか。」
「馬鹿者、立派な犯罪だ。この盗人め。何が目的だ?此処に金目の物は何もないぞ。…ハッ!まさか私か?私が目当てなのか…ぇぇいこの不埒な性的犯罪者めが警察機構に引き渡してくれるわ!」
侵入者に照準を合わせたまま、空いた手で携帯電話を取り出す。1、1、0、と。
「止め、ちょ、マジ?や、ごめんなさい。この通りです。何でもしますから、それだけは!」
「ほぅ、キサマ何でもするだと…?」
携帯電話を切り、しばし思案。ふと目に付くコタツの上の湯呑み。
「キサマ、その湯飲みは何だ?」
震える声を押し殺し、あくまでも平常心を装い問う。
「ぇ、これ?待っている間、喉が渇きまして…悪いとは思ったけど少しばかし借りてます。」
……ぷつぅんー
あ、これが俗に言う、何かが切れるっていうことかー
こんなことを考えている時点で結構冷静なのかもしれない。うん。
「部屋に侵入しただけでは飽き足らず、あまつさえ私専用湯呑みにまで手を出すとは!乙女の純潔を奪いし悪漢めが!許すまじ。死して後悔するがいいーー」
銃声は弾薬が切れるまで続く。
それを変な動きで避ける男。正直気持ち悪い…いや、だって…くねくねしているんだよ?
「こ、殺す気かー!?」
「もちろんだ。」
怒る男。即答する私。固まる男。ちょっと笑える状況。まぁ、それはさておき。
「さて、冗談は置いといて…っと、答え方次第だがキサマの暴虐の限りを許してやらないわけでもない。」
どうすれば?という感じの上目遣いで見てくる男。小動物にみえなくもない。
「私はこれでも泡沫という結社を立ち上げている。しかし人員不足でな…もう解るだろう?」
一種の脅し。でも気にしない。気にしたら負けのような気がする。
「は…い。どうか私めを貴方の下で働かせてください…」
「そうか、そうか。泣くほど嬉しいか…私の為に力尽きるまで働けよ。」
何でこうなったんだろう?という男の呟きが聞こえるがこの際どうでもいいことだ。
「キサマ、名は?」
「ぁ~、朱月 勾燐です。よろしく…」
「勾燐…ね。では手始めにここを朝までに綺麗にしておけ。」
そんなこんなで初の結社員を手に入れたのでした。まる。
04 | 2024/05 | 06 |
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26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
そしてさぼてんラブです。
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この作品は、株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のイラストとして、桐嶋千怜が作成を依頼したものです。
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